長征7号打上げ失敗、国産H2型ロケットとの大きな違い

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長征7号打上げ失敗、国産H2型ロケットとの大きな違い

3月16日、中国の国営新華社通信の報道で「長征7号」が南部・海南島の文昌衛星発射センターから打ち上げたものの、ロケットに何らかの異常が発生し失敗しました。「長征7号」は中国の次世代を担う主力ロケットです。

さて長征7号ですが、当初の設計目標はペイロード35トン。とんでもなく搬送能力の高いロケットです。メインエンジンの耐圧は5,000気圧と推定されています。通常大型ロケットはメインエンジンの推力を補うSRBを装着しますが、長征7号は、SRBではなく補助ブースターと言われる液体酸素とケシロンを使った推力の大きい実質ロケットと同じものを使用しています。

【SRBとは】
通常固体燃料ロケットエンジンによるブースター(Solid Rocket Booster)のこと。SRBは液体ロケットブースターと比較して大きな推力が得られ、推進剤を低温に保つための冷凍機や断熱材なこともあり、ロケット打上げ時のロケットの総重量を減らせることができる。

それらを束ねた結果デザインはお隣の国らしい「重厚長大」さを感じさせます。

写真引用:新華社通信様

しかし筆者は長征7号がペイロード35トンを成功させるにはまだ多くの技術課題があると素人ながら思います。エンジン本体もそうですが、様々な種類の燃料充填、点火タイミング、姿勢制御、切り離しタイミングなどなど。

メインエンジンは旧ソビエトが開発したRD-120エンジンの進化系と言われていますがRD-120は技術レベルが高く、そうしたものを一切合切含めた長征7号は2016年6月に初めて人工衛星を、17年4月には宇宙貨物船「天舟1号」を搭載した打ち上げに成功してます。驚くべき技術習得と応用の速さです。

日本のロケット技術開発の歴史

今年2月9日、三菱重工業は情報収集衛星「光学7号機」を載せたH2Aロケット41号機を鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げ成功させました。これでH2Aの打ち上げ成功は35回連続(成功率は97.6%)です。まもなく後継となるH3ロケットが登場する予定です。

写真引用:日経新聞様

JAXA(宇宙航空研究開発機構)が研究・開発し、実運用をしている日本のこれら主力ロケットのルーツを辿ると太平洋戦争時の中島飛行機にいきつきます。

当時三菱が開発したのが日本海軍の名機零戦、堀越二郎氏が設計しました。

中島飛行機

中島飛行機には糸川英夫氏がいました。当時、中島飛行機は陸軍の「隼(ハヤブサ)」などを開発、終戦間際はメッサーシュミットMe262の写真と僅かな図面を頼りにほぼ独自の発想でジェットエンジンを搭載した試作機「橘花(きっか)」を開発します。

写真引用:Wikipedia

余談ですがジェットエンジンには耐圧・耐熱素材が必要で、当時ほとんど希少金属がない時代に、現、住友金属、日立金属が耐圧・耐熱素材を開発しています。糸川英夫氏はそんな厳しい状況の中で最先端の技術開発を先導したわけです。

終戦後、糸川氏は飛行機からロケットの技術開発に転換し、世界から嘲笑を受けたペンシルロケットから始め、地道に、そして苦渋に耐え、基礎研究を続け、様々なブラックボックス、苛めに近い制限などを払いのけて、1970年に日本初、世界で4番目の人工衛星「おおすみ」の打上げに成功します。

写真引用:JAXA様

中島飛行機が開発したジェットエンジンはその後川崎重工と石川島播磨に引き継がれてゆきます。

JAXAの時代

その後日本はロケットエンジン開発は難題の「液体水素、酸素を使ったシステム」で完全に国産すると定め、文字通り悪戦苦闘の末、LE7型エンジンを開発し現在に至ります。

写真引用:三菱重工様

LE7の耐圧は3,000気圧、長い歳月をかけて開発し打上げ成功を続けるこのエンジンには大変な数の企業、技術者、職人など大勢の方々の知恵と工夫の塊です。そのH2ロケット8号機は1999年、打上げに失敗し、海の藻屑と消えました。しかしJAXAは原因究明のため、深海調査船「かいれい」「新日丸」「アメリカのサルベージ会社」でエンジンの回収を始めます。そして2001年1月に奇跡としか言いようがない3、000mの深海に散らばったロケットの残骸を発見します。

写真引用:JAXA様

LE7は回収され打上げに失敗した原因究明をし、そして原因を突き止め、改善。この地道な努力が今の打上げ成功連続記録更新の石楚になっています。

足りない推力は固体燃料のロケットブースタで補い、H2型ロケットの佇まいは、技術が凝縮する時に見せる美しいスマートなデザインになっています。

その後H2ロケットはH2Bと進化し、今や国際宇宙ステーション「ISS」に物資を運ぶ補給船「こうのとり」の運用もしています。

写真引用:JAXA様

筆者は「こうのとり」が国際宇宙ステーション「ISS」にドッキングする映像を見るたびに毎回思います。ドッキングした後にISSに滞在している隊員は宇宙服など着用せずに「こうのとり」に乗り込みます。

これは「こうのとり」に座席をつけて帰還できたら有人ロケットシステムになるのではないかと。実は国産有人ロケットの基礎技術開発はすでに完了し、実用レベルまであと一歩なのではないかと。

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H2Aロケットの応用

イプシロンロケットも4回連続で打ち上げに成功しています(4回目:2019年1月18日)。イプシロンロケットの第1段はH2AのSRBが応用されています。2段、3段はあの「いとかわ」を小惑星まで送り込んだM-Vロケットを流用しています。

このあたりが実に日本らしい無駄のない節約精神を感じます。また独自技術なのでそうした流用ができるものと思います。

写真引用:JAXA様

SS-520

日本にはH2系とは違いますが固体燃料を使った2段式の最小ロケットとしてギネスまで取ったでSS-520型ロケットがあります。

ペイロード140Kgですが到達高度1,000kmの性能があります。ほぼロケット自身が自立制御し、機体の監視などを行います。安価に、そして小回りが利くロケットです。

写真引用:https://www.flickr.com/

ロケット技術は国防と表裏一体

東アジア危機に対して日本は憲法その他関連法案で、万が一にもミサイルが飛んできたら手足も出せないとニュースなどが報じています。実際その通りでしょう。
しかし同時に
技術の蓄積は確実に進めています。その技術は国防に必要な兵器への転用可能です。

  • 大陸間弾道弾
  • 戦術核
  • 帰還型有人ロケット
  • 巡行ミサイル
  • 迎撃ミサイル

ロケットの技術開発に取り組む多くの日本の企業、様々な経験と勘を持つ技術者達。実はこうした数えきれない技術と成果が、核など物騒な物を持たなくても立派な抑止力になっていると思うのです。技術は力なり。

実際に世界が日本のロケット技術力に驚嘆し、兵器転用した場合に脅威になるといった配信されています

でも日本はそんなことはいたしません。

まとめ

下記、中国の宇宙開発に関するレポートの要約です(防衛省のレポートからの引用です)。

  • 1950年代からを研究を推進し、1970年ミサイル開発を発展させた技術を用いて「長征1号」に人工衛星「東方紅1号」搭載し打上げ成功
  • 中国は有人宇宙飛行、月面探査機の打上げなどを行っている。その目的は国威の発揚や宇宙資源の開発を企図しているとの見方がある。
  • 2015年の中国の国防白書「中国の軍事戦略」で、宇宙空間は国家間の戦略競争の攻略ポイントであると指摘している。
  • 2016年の宇宙白書「2016中国の宇宙」では、「宇宙強国の建設」や「中国の夢の実現」といった方針が示され、国際協力や宇宙の平和利用と安全保障の要求も満たすとしており、宇宙空間の軍事利用を否定していない。
  • 運搬ロケットは、中国国有企業が開発・生産を行っているが、これらの企業は弾道ミサイルの開発・生産なども行っているとされている。
  • 2016年4月には文昌衛星発射センターから「長征7号遥2」運搬ロケットにより、無人宇宙貨物輸送船「天舟1号」を初めて打ち上げ、その後、「天舟1号」と宇宙実験室「天宮2号」のドッキングに成功。
  • 2016年から10個の人工衛星を次々と打ち上げ、実際に情報収集、通信20、測位など軍事目的での宇宙利用を積極的に行っている。

すでにロケットの打ち上げ回数で中国は世界一。でも平和に貢献した話など聞いたことがありません。

軍事費予算も年々拡大しています。

引用:防衛白書

体制維持のための軍拡、時代錯誤の領土拡大に走る国の指導者はそのような愚策が失敗することを歴史に学ばなければなりません。

そして地道に努力すれば、結果は必ず成功することも歴史に学ばなければなりません。以下、孫氏の兵法からです。

「主は怒りを以て師を興すからず」

主君は、怒りから師団(軍隊)を編成するべきではなく、将軍は、憤りから戦争を始めるべきではない。軍隊を編成し、戦争を始めるには、莫大な費用と人民の犠牲が必要である。徴兵もおこなわれ、戦争を始めれば、勝っても負けても多くの命を失い、はかり知れないほどの怨恨が残こる。怒りや憤りを理由として、怒りや憤りを静めるだけのために戦争をおこなうのは、余りにも犠牲が多く、愚の骨頂である。

現代の経営学でも使えますね。

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